武甲山
おだやかに移り変わる車窓の景色を楽しんでいるうちに、バスは山里深く入り込んで行きました。飯能駅から1時間ほど、終点の名郷に到着です。3月とはいえ、朝の空気は身体を震わせるほど冷たい。妻坂峠への道を右に見て、沢沿いの道を進みます。覆いかぶさるような岩壁、落石に注意しながらちょっと緊張。キャンプ場を過ぎ石灰岩採鉱工場跡に着きました。ルートはこの工場跡を避けるように上部に回り込んでいきます。トロッコのレールや、鉱石を運ぶモノレールなど、まだいつでも稼働できるかのような姿で残っています。山道に突然消火栓が現れました。この辺りは昭和60年ころまで人の暮らしがあったようです。この先には何軒かの廃屋が残っています。沢筋を、うっすらと残っている雪に滑らないよう注意深く進みます。右、左と規則正しく続くつづら折りを登り切ると、鳥首峠に到着です。稜線上は予想外の雪上歩きとなりました。巨大な古木に遭遇、力強いフォルムに圧倒されます。ウノタワというちょっと変わった名前の場所、正真正銘の雪景色です。新緑や紅葉の季節に是非また訪れたい所ですね。冷たい風が一層強くなりました。それでも、青い空を背景に、生き生きとした姿を見せる樹々は、春の輝きに溢れています。大持山(1,294M)山頂が見えてきました。展望が良く雲取山も見えますね。いつの間にか風の強さも気にならなくなり、心地良い陽光が眩しい。少し歩いて小持山に到着。前方に武甲山が見えます。こちらの南方向から見る武甲山の姿は、北側からの姿とは全く違う優しいイメージの山容です。最後の登りをがんばってようやく山頂(1,304M)に着きました。眼下に広がる秩父盆地、思っていたよりも広いですね。武甲山の頂上は、展望所に便宜的に設置されています。本来の頂上はすでに採掘のため無くなっていますが、現在の一番高いところも保安のため立入禁止です。横瀬駅に向かって下山開始。途中すれ違った方から「北アルプス見えましたか?前回来た時はよく見えましたよ」とのこと。どうだったろう、北アルプス、全く意識していませんでしたね。整然とした杉の林立が、ことのほか美しい姿を見せています。山道を下り終わると車道歩きとなります。いくつもの石灰岩関連の施設の、異形の姿が立ち並ぶエリアとなりました。工場萌えでなくても、この圧倒的なエネルギーには心が揺さぶられます。豊かな自然と産業エネルギーの強烈なコントラスト、印象深い光景ですね。
朝の寒いスタートから始まった今日の一日、今はとてもあたたかな春を感じながら、駅までもう少し歩きましょう。